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『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』を読了しました

 先日買っていた、『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』を読了しました。






 ↓買った時のことを書いたエントリはこちら。

神戸三宮の古本屋などでミリタリー本を大量購入 (2019/04/13)



 感想ですが、むっちゃ分かりやすくて面白くて、大変良かったです。以前に2冊ほどムッソリーニの詳しい伝記を読んでいたのですが、ある意味詳しすぎて当時それらの本からほとんど何も理解できなかった感もあり、その前にこの『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』を読んでいれば全然違ったかも……と思いました(その2冊の本に関しては、こちらに書いてました→SLGamer RE:再評価されるべきイタリア (2013/09/07) )。


 『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』が分かりやすく面白いというのは、ムッソリーニの性格の悪い点や良い点についてある意味誇張かもしれないほどに特徴的に書いてあってすごく印象に残りやすかったのと、ムッソリーニに欠点が多かったにもかかわらず何故政権を取ることに成功したのかということとか、あるいはどのようにして戦争に突き進んだかというようなことが端的に説明されているのが非常に良かった……ということによると思います。

 以下、非常に印象的だったところを抜き書き、あるいは引用していこうと思います。

 ムッソリーニが若い頃の性格描写についてですが、「ケンカずきで、短気」(P11)、「ケンカばかりしていていたため、何度も放校され
(P12)、「じっとしていることができず、気がみじかく、暴力的で、野心家」(P13)、「神経質で、興奮しやすかった」(P14)、「彼は、婦人に暴力をくわえることを自慢していた」(P15)などと書かれていますが、成績は良く、また非常に良い声で(イケメンボイスってこと?)、演説が上手かったそうです。




 ↑動画からは、良い声という印象は私は受けませんが……(^_^; もっと若い頃の演説だと良いのでしょうか。あと、どうでも良いことながら、声優の緑川光さんとか中村悠一さんとかの声は私は非常に好きですね~。ムッソリーニの演説をその声でされたなら、私は付いていきます(おい)


 ムッソリーニが有名になっていき、権力を握っていく上でこの演説能力の高さは大変重要な役割を果たしたらしく、↓のように書かれていました。

 彼は、きわめて有能なジャーナリストとして活躍したばかりでなく、独特なタイプの、すばらしい演説家としても、名声をたかめた。
 彼の態度はいつも芝居がかっていて、その意見は矛盾し、発言はしばしばまちがっており、またその攻撃は悪意にみち、マトはずれのばあいもおおかった。
 しかし彼の声は、人びとを魅了し、その何回もくりかえす、力づよいゼスチュアは、大いに効果をあげた。そしてしゃべることばは劇的で、しかも適切で効果的な比喩を、たくみにつかった。
 そのうえ彼は、いくつかのみじかくて、人の心に訴える名文句をつくりあげる名人で、それを継続的にどなりながら、全体をクライマックスにもりあげてゆく才能があった。
 とくに彼は、聴衆のなかにひとつのムードをまきおこし、それから自分をそのなかに投げこむという、きわだった能力をもっていた。そして彼が演説するときは、彼がくりかえすひとつひとつの文句に、聴衆も「そのとおり!」とさけびかえし、一種の対話集会のようになってしまうのだった。

『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』P17



 ヒトラーも非常に演説が上手かったそうですし、近年だとオバマ前大統領が名演説で有名で当選を果たしましたが、オバマ前大統領は(も)ある意味「口だけ番長」で、その時代にアメリカの理想主義的リベラリズムは極限まで行って攻勢限界点を超えてしまい(?)、その後は全世界において反理想主義的な反動主義の揺れ戻しが来るようになったようにも思われます。ムッソリーニの暴力主義的(ファッショ)から端を発して、ヒトラーが人種差別主義(ホロコースト)の極限まで自国を導いてヨーロッパに惨禍を招き、その後は逆方向(反暴力主義、反人種差別主義)に世界が向かったのに対して、それを逆転させたのも「演説の上手さ」によって人物を選んでしまったことによるのではないか……とも考えたり(いや、オバマ氏が大統領になってなくたって、反転はしたでしょうかね~)。

 尤も、世界の潮流は第二次世界大戦以後、反暴力主義に向かったはずなのに、私の地元尼崎では体罰による部活指導がまだまだ健在であり続けているというのが泣けます(T_T)


 閑話休題。


 なぜムッソリーニが権力を握ることができたのかについて、同書ではこのように書かれていました。

 当時イタリアは、戦後の無政府状態になやんでおり、国民はムソリーニの説く、国家の病弊をなおすという独裁主義をうけいれるようになっていた。
 ……【ローマ進軍の成功でムソリーニが政権を得た】
 ムソリーニの成功は、めざましく、また突然であったが、これには、それ相当の理由があったのである。
 まず彼は、いくつかの外的状況 - 経済危機、労働者階級の分裂、うっかりしていた中産階級政党などの条件が、きわめてタイミングよく組み合わさった - によって助けられたのであった。
 また彼の力づよい肉体や、断続的にくりかえすたくみの演説のやりかた、人をひきつける魅力なども、大いに役だった。
 しかし、彼を成功させたのには、これ以上の大きな理由があった。
 それは彼の生まれつきの直観か、あるいはぬけ目のない計算か、そのいずれにしても、彼がとびきりのオポチュニスト〔日和見主義者【ある定まった考えによるものではなく、形勢を見て有利な方に追従しよう」という考え方のこと】〕であり、またきわめてかわり身のはやいアジテーターであり、また敵のあいだにクサビをうちこんで分裂させる、政治技術の名人でもあった、という点である。
 ……
 そしてイタリア人が、彼を熱狂的に歓迎したのは、国民的指導者としてであった。
 人びとは、ストライキや騒乱にあきあきしており、ダヌンチオ〔イタリアの愛国詩人で第一次大戦に活躍〕がフュウメ市民をもえあがらせたような、ファシズムのはなやかな舞台装置や、中世ふうの装飾をもとめていたのであった。
 ……
 ムソリーニは、大衆にたいしてたくみに、自分がいかにもイタリアの運命の人であるかのような印象をあたえ、人びともまた、そう信じた。
『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』P24~27



 そういえば、「英雄のいない国は不幸だ」「ちがう、英雄を必要とする国が不幸なのだ」というセリフのやり取りを思い出して、「ムッソリーニの件とか、本当にそうだなぁ……」と思ったのですが、私はこのやり取りは『銀河英雄伝説』の中にあったと、大学時代のシミュレーションゲームサークルの先輩に聞いたと思っていたのですが、今検索してみると、『ガリレイの生涯』という戯曲の中のセリフだとか?

 まあそれはともかく、ムッソリーニの成功の要因に、独裁者を望む国民と、偶然のタイミングのよさと、機会を見て迅速に変り身するムッソリーニのやり方があったということで、うーむ、なんとも不幸な……。


 しかしその後の国内政策ではムッソリーニは多くの成功を収め、当時チャーチルをはじめ多くの人びとがムッソリーニを「真に偉大な人物」と尊敬したそうなのですが、エチオピア侵略を嚆矢として戦争に突き進んでいって大失敗しました。

 またイタリアの有名な作家アルベルト・モラビアは、つぎのようにのべている。
「もしムソリーニが、国内政策とおなじように、賢明な外交政策をとっていたならば、おそらく彼は、こんにちでもドゥーチェであったろう」
 これは、一考にあたいする意見である。
 エチオピア〔アビシニアともいう〕侵略と、その後の彼の没落への道をひらいたのは、彼の傲慢さ、外国人ぎらい、そして、イタリアにとって根本的に必要なことはなにか、ということについてのあやまった判断によるものだった。
 彼の没落は、自分がつくりだしたものであることを、彼はけっしてみとめなかった。なぜならば、彼はなが年にわたり、自分自身の宣伝を信じ、自分はあやまりをおかさない、と確信してしまったからである。
「わたしの墓には、こういう墓碑銘をつけてほしい」
 あるとき彼は、すこしのユーモアも自制心もなく、こういった。
「地上にあらわれたもっとも知性のある生物、ここに横たわる」と……。
 これはあきらかに、誇大妄想狂のしるしである。
 じじつ、ムソリーニは、おおくの偉大な才能をもっていたにもかかわらず、たえず不安定で、ずるく、体質的にうたがいぶかく、病理学的には利己主義であった。そのうえ大言壮語をどなりちらすのとはうらはらに、じつは臆病で、優柔不断であることを、ながいあいだかくしていたのであった。
『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』P30



 「戦争さえしなければ、偉大な政治家として世界史に名を残しただろうに」というようなことはヒトラーについても言われているのを見たことがあるような気がするのですが、今読んでいる途中の『ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い』を見ていても、ヒトラーの目的はそもそも戦争をして東方にドイツ人の生存圏を確保する(そしてその過程で必然的にスラブ人等の数を減少させる……)ことにあり、そもそも「戦争をしない」という選択肢自体がなかったようなのですが、ムッソリーニの場合にはそういうわけではなかったのに(また、イタリア軍に戦争ができる能力がなかったのに)戦争に突き進んでしまいました。

 また、疑い深いとか、実は臆病であるというようなことは、スターリンにも似ていると思うのですが、なぜムッソリーニはスターリンのように権力を維持できなかったのか……?


 ムッソリーニが戦争に突き進んだ要因としては、ポーランド戦やフランス戦におけるドイツ軍の成功を目の辺りにして、日本の「バスに乗り遅れるな」と同様、焦って気も狂わんばかりになっていたということがあるようです。

 ムソリーニは、平和がイタリア国民の福祉に不可欠なものであること、長期戦はかならず害悪をもたらすこと、また自分は盲目的にドイツとともには行進しない、とかんがえていたが、半面、ドイツ人が“安あがりにうまい仕事をせしめてしまうのではないか”という不安におそわれていた。
 ……
 彼はファシスト大評議会に、つぎのように通告した。
「イタリアは、当分のあいだ軍事行動を開始しない。……
 われわれは、冷静に事態を注視し、われわれの計画をねらなくてはならない」
 だが、ムソリーニは、冷静に事態を注視するどころではなかった。彼はほとんど気も狂わんばかりの熱心さで戦争の進展を見まもり、また例の長広舌で、チアノやそのほかの閣僚をつかれさせたり、イライラさせたりした。
 ……
 そしてドイツがフランス侵攻を開始するころになると、ムソリーニは、ヒトラーが独力で戦争に勝つのではないか、という不安にとりつかれた。
 ……
 ムソリーニは、あまりおそくならないうちに参戦することを熱望するあまり、イタリア国民はみなドイツ側について参戦するのを歓迎している、とおもいこんでしまった。
 彼は「イタリア人は売春婦のように、いつも勝つ側につくのさ」といった。

『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』P36~41



 また、ムッソリーニの統帥についてはこのように書かれていました。

 しかし彼は、補給というかぎられた問題よりも、大計画につよい関心をもち、軍の統帥という、ほんとうに重要な問題よりも、制服や勲章とか、ドイツ軍の“ガチョウ歩調”〔ヒザをまげずに、歩調をとって行進する歩き方をいう〕を、イタリア軍にとりいれて、“ローマ式歩調”とよぶような、つまらない問題に関心をそそいでいた。
 また重要問題の解決は、自分でかんがえずに彼をとりまく無能で、へつらう部下の手にまかせた。これらの部下は、ムソリーニが当然知らなければならないことよりも、ただ気にいりそうなことだけを報告していたのである。
 また彼は、不快な事実に、注意をむけなくてはならなくなったときでさえ、それを無視するか、信じないことにした。こうして彼は、自分の宣伝に自分がまどわされることになった。

 ……
 もちろん、その気質や性向からして、彼はまったく政治家ではなく、ジャーナリストであった。そのジャーナリストとしての才能は - 彼自身も誇りにしていたが - 文章や演説など、ことばによって大衆を扇動することであった。
 しかしこまったことに、ムソリーニは物語や見出しを書いたりすることだけでは満足しなかった。
 彼は、それに生命をふきこみ、栄光につつまれて世界中を行進することをのぞんだ。

『黒シャツの独裁者 統領ムソリーニ』P51



 ロンメルのエル・アラメインへの進撃の際には、ムッソリーニはカイロ入城を白馬に乗って果たそうと、白馬を北アフリカに持ち込んで待機していたらしいですから……。


 読んでいて、『高学歴モンスター』という本に書かれていたことを思い出しましたね。



 豊田真由子様(「このハゲー!」で有名になった人)とかも、姉妹が超絶優秀であったらしく、本人も経歴的には超優秀ですが、ムッソリーニばりの嫉妬心(ヒトラーに対する)がすごくて、モンスターになってしまった感が……。

 また今までも時々当ブログで、「サイコパス傾向の人の方が(そうでない人よりも)出世し、成功する確率が高い。ただし、慢心して大失敗して大コケする可能性も結構あると思う」というようなことを書いていましたが、ムッソリーニもそうではないでしょうか。というか、ヒトラーもスターリンもチャーチルもそうだと思われ……(ルーズベルトとか東条英機とかは違うかな……?)。

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DSSSM(松浦豊)

Author:DSSSM(松浦豊)
 ウォーゲームの中でも、OCS(Operational Combat Series)だけをひたすらプレイしたり、関係情報を集積したりしてます。また、ナポレオン時代のプロイセンと、あと若干イギリス軍関係を調べたり。自宅(尼崎会)でOCSを置きっぱなしプレイがメインになってますが、時々はゲームクラブのミドルアース大阪などに行ったりも。

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