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『ブラッドランド』:戦前に約350万人(以上)を大虐殺していたスターリン

 『ブラッドランド 上』を読み進めてます。

最近買った本『ブラッドランド』『枢軸の絆』『世界史を動かした脳の病気』など (2018/05/30)


 上巻の半分くらいまで進みましたが、そこまでで主に語られていたのは1933年を中心として、スターリンがウクライナの農民を飢餓に追いやって約330万人を餓死に追いこんだことでした。

 そもそもなぜそんなことをしなければならなかったかなのですが、スターリンの5カ年計画や集団農場政策がうまくいかない*1中で、中央ロシアとは違った民族風土で大集団のウクライナの農民達はそれに抵抗し、元々収奪先だと考えられていたウクライナに対して「思い知らせる」意味でもスターリンはそこに過酷な徴集*2を上積みした。そしたら大量餓死が起こり始めたが、スターリン(ら)はそれを「飢え死にしかけている農民は……ソ連の信用失墜をもくろむ資本主義国の手先として働く工作員である(P86)」と解釈し、「1932年の末、国外からの脅威も国内からの抵抗もなく、みずからの支配の必然性を正当化する論議しか出てこない状況下、スターリンはソヴィエト・ウクライナの数百万人を見殺しにする道を選んだ。悪意の塊と化し、なぜかウクライナ農民は加害者で、自分が被害者であると断言した。(P88)」と……。

 個人政治[独裁政治]の達人であったスターリンは、ウクライナ飢饉を個人的に解釈してみせた。……彼にしてみれば、集団化政策のせいだという可能性が浮かびあがるのはがまんならなかったのだ。責められるべきは……断じてコンセプトそのものであってはならない。1932年前半の改革を推進するにあたってスターリンが問題視したのは、人民の苦しみではなく、集団化政策のイメージ低下を招く恐れがあったことだ。彼はこう不満を述べた。腹を空かせたウクライナ農民が故郷を離れてほかの共和国へ行き、「めそめそ泣いてみせて」ソヴィエト国民を混乱させている、と。
『ブラッドランド 上』P77



*1:ソ連国内の至るところで失敗していたそうですが、特に印象に残ったのは、スターリンが特に入れ込んでいた運河の掘削のために「ときには割れた陶器のかけらを使い、あるいは素手で、21ヵ月をかけて凍土を掘り進めていった。疲労や病気のために、何千人もの人が水のない運河の底で息絶えた。しかし1933年にこの運河が完成すると、実際はほとんど水運の役に立たないことがわかった。(P66)」という話でした。

*2:

 若い法執行者には熱心な者が多かった。彼らはソ連の新しい学校で教育を受け、新しい政治体制の可能性を信じていた。……罪悪感の裏返しか、勝利感からか、彼らは行く先々で農民たちに屈辱を味わわせるようなことをした。……ひとり暮らしの女性たちは穀物徴発という名目で夜間に強姦されるのがあたりまえになっていた。……スターリンの法と彼の国の勝利とは、そんなものだったのだ。
『ブラッドランド 上』P84




 ウクライナ飢饉の様子は様々に描かれていますが、特にここの部分。

 国家警察であるOGPU【後のNKVDやKGBのようなもの】さえ、ソヴィエト・ウクライナの「家庭では、もっとも弱い者 - たいていは子供 - を殺してその肉を食べていた」という記録を残すはめになった。数え切れないほど多くの親がわが子を殺して食べ、その後自分も結局は餓死した。……
 ……心正しい人が先に死んだ。盗みもせず、体を売りもせず、ほかの人に食べ物を分け与えた人が亡くなった。死体を食べることを拒み、同胞を殺すことを拒否した人が命を落とした。人を食うことに抵抗した親は子供より先にこの世を去った。……
 ……
 両親が自分たちの死後は遺体を食べてくれと子供に頼んでいたケースもあった。「母さんは、わたしが死んだらこの体をお食べと言ってたんだ」と、きょうだいに告げるはめになった子はひとりやふたりではない。子の行く末を案じた親の愛だったのである。
『ブラッドランド 上』P100~102



 その結果、ウクライナでは多くの農民が、他国がソ連を侵略して自分たちを苦しみから解放してくれないかと願っていたそうです。

 その後もスターリンは国内で次々に粛清(特に民族的粛清)を繰り返しますが、その手法は地域毎に粛清すべき人数の割り当てがまずあり、現地の担当者は忠誠を示すために割り当てよりも多めに処刑するということで、拷問により自白させてどんどん処刑していくというもの。しかしこのそれらの自白の報告などを読むにつけスターリンは「実際に国内に敵がいるのであり、それを処刑できている」という精神の高揚を感じると共に、自分の息のかかっていなかった上層部をも処刑して自分の意のままになる人物を上層に据えることによって、独裁体制をほぼ完全なものとすることに成功していったと……。

 一方で、ヨーロッパでは(もちろん世界中でも)この飢饉や粛清についてほとんどまったく何も知られていなかったそうで、むしろ当時ドイツでナチスが様々な暴力的手段も使いながら勢力を拡大するのに危機感を抱き、スターリンのソ連を味方としてなんとかナチスを抑えられないかと思っていたという状況だったそうです。1938年11月の水晶の夜事件でドイツで数百人のユダヤ人が殺され、多くのヨーロッパ人がこれを野蛮さの表れとみたが、同時期のスターリンによる民族的大粛清の犠牲者数は25万名近くにのぼっており、この中には数千人のユダヤ人も含まれていたので、

 1938年末の時点では、ソ連で民族的背景を理由に殺害された人の数は、ナチス・ドイツの約1000倍にも達していた。さらに言えば、このときにはソ連のほうがはるかに多くのユダヤ人を殺していたのだ。
『ブラッドランド 上』P186



 以前私は東部戦線のナチス・ドイツ軍兵士の蛮行や残虐性について (2017/07/17)の中で、ウクライナでドイツ軍兵士がいかにウクライナ人をひどく扱ったかという話を書いてましたが、それ以前にウクライナ人達はスターリンによってもっとひどい目にあっていたわけです。

 1930年代のうちにこのこと(ウクライナで約330万人が餓死させられ、その後ソ連国内で約25万人が民族的粛清を受けていたこと)がちゃんといくらかでも知られていたならば……!? いや、今でも(日本では?)知られてないような。『ブラッドランド』は世界30カ国でベストセラーになったそうですが、これは本当に、もっと知られるべき歴史だと思いました。


 それにつけても思うのは、スターリンとかヒトラーとかの、「自分が正しい」といくらでも強引に解釈する/できる/勝手にしてしまっている脳の働きです。

 私は20代前半の頃からポパーに私淑して、「そもそも正しい考え方などというものは原理的にあり得ないのだから、そのことを皆が知れば、色々な不毛な対立が解消してよりよい世界にできるのではないか」とずっと考えてたんですが、ここ1、2年で、「そもそも人間の脳自体が、自分が正しいと考えるようにできているし、自分が正しいと言い続ける人を信じるようにできている。そして、自分が絶対正しいと考える人の方が、自分が絶対正しいわけではないと考える人よりも、チャンスをものにし、人を傷つけてでも高い地位と大きな収入を手に入れる(ただし、時に大コケもする)。それが進化的に安定な状態なのだ。」ということが分かってきました(「そんなの当たり前じゃん」と仰る人もいることでしょうが、私は本当に分かってませんでした)。

 ちなみに、最初にリンクしたエントリで書いていた『悪いヤツほど出世する』ですが、中身はやはり、「実際に成功した人を調べてみると、ほとんど人徳の欠片もないような人が大成功しているよ」というような話で、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス(Amazonの創業者)らの下で働いていた人達は「地獄のような恐怖に日々怯えながら働いていた」そうです。

 特に最近、Amazonの倉庫で働いている人達の労働環境がものすごく劣悪で、一方でベゾスは手に入れた莫大な私産を湯水の如く消費しているとか(今まで読んだ本ではベゾスは消費者のことを本当に良く考えている……という文脈のものが多かったのですが、自社の底辺労働者の人権は全く無視しているということでしょうか)で、ヨーロッパでは人権問題的にAmazon不買運動が起こったりしたそうです。私もAmazonにはお世話になり、商品へのリンクも貼ってますが、不買運動に加わった方がいいのかなぁ……と悩んだり(とりあえずは、洋書は紀伊國屋書店ウェブストアで買うとか……?)。

 ですが、非人道的だからダメだとかでなく、むしろそういう人が実際のところ成功しているわけです。ヒトラーは最後はダメでしたが、前半生から考えればまったく信じがたいほど成功したと言えるでしょう。スターリンは最後まで成功したままだったと言えるでしょう(死後批判されましたが、昨今はまた人気が戻っているそうです)。チャーチルもインドで約300万人を餓死させました(→インド人300万人を死に追いやったチャーチルvs.ウェーヴェル将軍の戦い (2018/05/13) )し、(戦後すぐ失脚しましたが)ノーベル賞もとりましたし、最近も誉める映画が作られていたようです(見てないのですが、映画の中で毀誉褒貶両方あったのでしょうか?)。


 とりあえず、世界を、偏ることなく、バランスを常にチェックしながら考えていきたいと思っています。
(というか、↑それが不可能だというのが脳生理学の知見なんだということでもあるのでしょうが(^_^;)

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Author:DSSSM(松浦豊)
 ウォーゲームの中でも、OCS(Operational Combat Series)だけをひたすらプレイしたり、関係情報を集積したりしてます。また、ナポレオン時代のプロイセンと、あと若干イギリス軍関係を調べたり。自宅(尼崎会)でOCSを置きっぱなしプレイがメインになってますが、時々はゲームクラブのミドルアース大阪などに行ったりも。

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